元島根県民のお部屋

島根県の近代建築・近代化遺産と、路面モジュールのブログ

旧加茂郵便局(雲南市加茂町)

1
旧加茂町の中心である加茂中は、かつてのこの地域の商業の中心地であり、
現在も古い商家が建ち並ぶ歴史的な景観を残しています。

近代建築もいくつか現存しており、そのうち拙ブログでは
「旧加茂信用組合」「旧松江銀行加茂支店」をすでに紹介しております。
もう一軒、古い町並みの中で異彩を放つ近代建築が、
今回ご紹介する、この旧加茂郵便局の建物であります。

DSCF1143_20150813011239e23.jpg
「島根県近代化遺産(建造物等)総合調査報告書」では
加茂郵便局の建築年を「昭和10年頃」としていますが、
正面玄関部分に縦方向に大胆にタイルを用い、
寄棟の屋根を載せていながら周囲を看板建築の如く
ファサードを巡らせています。
看板建築風であれば、たいていモルタルで屋根を隠し、
そのファサードには何らかの装飾が施されますが、
この建物は全て板張りで、縦・横の板の方向でアクセントをつけています。

かなり斬新なデザインで、戦前の地方の郵便局建築にしては思い切ったようにも思え、
実は戦後の建物なのではないかと疑ってしまうほどです。

3
松陽新報(昭和10年6月10日付)

戦後築かと疑いましたが、
戦前の新聞から「新築落成した加茂局」という記事を探し出し、
やはり戦前の建物だということが確認できました。

2
新聞の写真と同じアングルで撮ったものを探しました。
この通り、新築当時とほとんど変わらず、
原形を保っていることがわかりました。
ついでにお隣の商家も昔のままです。

4
松陽新報(昭和10年6月10日付)

当時の新聞記事から、当該建物に関する情報を抜き出してみます。

「経緯(加茂郵便局長談話より)」
・加茂郵便局は明治7年開局
・明治18年貯金事務開始
・明治29年為替事務開始
・明治32年小包取り扱い開始
・明治43年電信取り扱い開始
・大正11年電話通話事務開始
・昭和3年電話交換事務開始
・業務の拡大にともない旧局舎に狭隘を感じ新築を企図
・昭和9年当局認可を得て
・新局舎設計を松江建築事務所上川勝市氏へ委嘱
・請負は町内職工3名に指名
・昭和10年5月末竣工、6月1日より移転新局舎にて事務開始

「構造の概要」
・木造洋館総二階建
・屋根赤瓦葺き
・構造は局舎建築として堅牢を旨とし
・近代様式を加味し通風採光等公衆の利便を考慮して
・簡素なる内に明朗優美なる形態色彩となし
・事務的方面に於いても遺憾なきよう留意
・工事は相当の期間を要しているが之は木材の乾燥期間を取った為

松陽新報の記事より、設計者が「松江建築事務所」の
「上川勝市氏」ということがわかりました。

5_20150813010517836.jpg
松陽新報(昭和10年6月10日付)

加茂郵便局新築記念の名刺広告欄にも、
松江建築事務所の広告の記載があり、
複数の所員を抱える建築事務所であったことがうかがえます。

昭和9年~12年くらいの新聞記事で確認した限りですが、
この間、小学校や信用組合事務所の新築の記事を読んでいると、
この松江建築事務所が設計・監督した建物がかなりあることが確認できます。

ネット等で検索しても「松江建築事務所」も「上川勝市氏」も手掛かりがなく、
現状ではナゾの設計集団と言わざるを得ませんが、
島根県の近代建築を考える上ではかなり気になる集団(と人物)です。

6
現在は空家で、少々荒廃しているのが気にかかります。
古い町並みが連続して残されている中で、
アクセントとして景観上重要な役割を果たしている建物と思われますので、
なんとか活用していただけるとよいのではないかと思います。


【建物のプロフィール】
竣工当時の建物名:加茂郵便局
竣工:昭和10年5月31日
構造:木造2階建て
設計者:上川勝市(松江建築事務所)
施工者:原田虎市・土江茂吉・佐藤正男


【撮影】 
平成25年9月

【参考文献】
松陽新報 昭和10年6月10日付記事
島根県近代化遺産(建造物等)総合調査報告書 平成14年 島根県教育委員会

関連記事
スポンサーサイト
  1. 2015/08/13(木) 01:13:21|
  2. 島根県の近代建築・出雲地方
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<箱根に行ってきました(その2) | ホーム | 箱根に行ってきました(その1)>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://okigoka.blog.fc2.com/tb.php/308-a468936a
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)