元島根県民のお部屋

島根県の近代建築・近代化遺産と、路面モジュールのブログ

松江放送局のラジオ塔その2(松江市灘町)

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以前ご紹介したNHK松江放送局前の「ラジオ塔」について、
設置当時の新聞記事などを発掘してきましたので、
情報を整理したいと思います。

松江ラジオ塔関連年表
図6

ラジオ塔に設置されている銘板には
「開局記念ラジオ塔 昭和7年3月7日」とあり、
昭和7年に開局を記念して建てられたものと考えますが、
当時の資料を確認すると、若干事実は異なるようです。

以下に、建築計画から除幕式まで、ラジオ塔に関する松陽新報の記事を時系列に転記します。
記事の書き出しにあたっては、適宜読点・句点を挿入し、現代仮名遣いへ改めています。

【昭和7年3月24日付 松陽新報】
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昭和7年3月24日
「松江城山あたりにラヂオ塔建設か」

「聴取者百万突破と放送協会の各種記念事業」
日本放送協会は去る二月十六日を以て
全国のラヂオ聴取者数百万二百六十に及び遂に百万突破の宿望を達したが、
これが為昭和七年度は大々的に記念事業を催すべく予算十万円を計上し、
全国的に盛大に行うこととなり、目下、逓信省に認可を申請してゐる。
記念事業の主なるものはラヂオ祭の挙行、発
明博覧会内にJOAK特設館並びに演芸場の設置、
受信機の懸賞募集、ラヂオ塔の建設等である。
- 中略 -
更に又ラヂオ塔は既に大阪天王寺公園、神戸湊川公園、奈良猿沢池畔、
京都円山公園等には建設を終ったが、
なお経費一万五千円を投じて全国六十箇所に建設し、
又一般大衆のサービス用として公設用受信機をも供給する筈で、
これが為JOTK所在地の松江市にも城山公園あたりを相して
今年中にラヂオ塔が建設される模様である。



○設置までの経緯
松陽新報でラジオ塔関連の記事はこれが最初です(と、思われます)。

松江放送局開局は同年同月の7日ですから、
開局の興奮冷めやらぬうちにラジオ塔建設の話が出ていたわけです。
こうしてみると、開局記念の建設、という要素もあったのかもしれませんが、

記事ではあくまでも聴取者100万人突破記念の一環としており、
開局記念のために建設するという記載はありませんでした。

ラジオ塔の設置は昭和5年の天王寺公園が最初とのことですが、
その後、聴取者百万人突破の記念事業としてラジオ塔の設置が盛大に実施されていった、
という流れの中で、松江もその設置場所として選ばれたのでありましょう。


【昭和8年2月24日付 松陽新報】
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昭和8年2月24日
「城山に建てるラヂオ塔来月中には完成」

聴取者百万突破記念のため建設する事になってゐる松江放送局のラヂオ塔は、
市当局と打合わせてゐたが、愈々二の丸公園内松江神社前車井戸附近に燈籠形としてつくる事になり、
近く工事を起し来月中に完成せしめる筈である。


【昭和8年5月25日付 松陽新報】
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昭和8年5月25日
「松江城山のラヂオ塔竣工す 二十六日に竣工式」

日本放送協会が昨年聴取者百万突破記念事業として
全国主要都市に設置する事となったラヂオ塔の一つとして、
T・K管内では松江城山興雲閣前を相しさき頃、
建築中の所この程漸く完成したので協会中国支部では松江市に寄贈することとなり、
愈々来る二十六日午前十一時から塔前に於て
市、T・K共済の下に盛大な除幕式を挙行することとなった。
このラヂオ塔は千鳥城頭ふさわしい古典的な御殿燈籠型である。
-以下略-



○起工、そして完成
昭和7年3月の記事にて「今年中にラヂオ塔が建設される模様」とされていましたが、
何かの調整に手間取り、1年後の昭和8年3月になってようやく
「近く工事を起し来月中に完成せしめる」ということになったようです。
しかし、一か月で完成する筈のラヂオ塔の完成は、結局5月までずれこんでしまいました。

以上の記事により、ラジオ塔の建設年が昭和8年とわかりました。
写真は不鮮明ですが、ほぼ現在の姿と同じであるように思われます。

2月記事でも、5月の記事でも建設理由は松江放送局の開局記念ではなく、
聴取者百万人突破記念とされています。


【昭和8年5月27日付 松陽新報】
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昭和8年5月27日
「ラヂオ塔の除幕式挙行」

日本放送協会に於て聴取者百万突破記念のため建設した、
松江城山公園松江神社前のラヂオ塔除幕式は、
二十六日午前十一時十分から新装成ったラヂオ塔前に於て挙行された。 
-中略-
福邑知事らの祝辞で閉式したが、
新緑の城山に文化の先端を誇って建設されたラヂオ塔は
午後零時五分記念放送する大津検(番)駒太郎君の民謡端唄によって最初の放送があった、な
ほ新装のラヂオ塔の概計は左の如し。
鉄筋コンクリート構造で建地四尺五寸四方、高さ十尺七寸
外部は人造石洗出仕上で公園との調和をはかるため燈籠形としてゐる。
而して内部のラヂオ機械は四球受信機で自動式調整装置をな
しスイッチを押す毎に十五分間づつ上部格子内のスピーカーより放送する仕組である。
工事は今年三月に着工したがこの工事費三百八十円であった。



○除幕式
昭和8年 に、現地で除幕式が開催されました。
記事中の除幕式次第は略しましたが、知事、石倉市長、松江憲兵隊指令など、
錚錚たるメンバーがそろった大掛かりな式だったようです。
一番下の画像の女性は除幕をおこなった、石倉市長のご令嬢です。

ラジオ塔最初の放送が大津検番の芸者さんによる民謡、
というところが時代を感じさせます。なんとものどかなものです。

一方で除幕式の記事の隣には戦前の言論弾圧事件として有名な
京都帝大の「瀧川事件」の記事が掲載されており、
これまた風雲急を告げる、戦前の世相を物語っています。

しつこいようですがここでも、
「聴取者百万突破記念」のために建設したと記載されています。


○ラジオ塔の詳細
記事中にラジオ塔の詳細について記述がありますので、書き出します。
・鉄筋コンクリート構造
・周囲:四尺五寸四方、高さ十尺七寸
・人造石洗出仕上げ
・公園との調和をはかるため燈籠形のデザイン
・内部部のラヂオ機械は四球受信機で自動式調整装置を備えている
・スイッチを押す毎に十五分間ずつ上部格子内のスピーカーより放送
・昭和8年3月起工
・工事費三百八十円


○その後のラジオ塔
建設以降、ラジオ塔がどのような経緯をたどったのかは、
まだ調べきれていません。

ラジオ塔が松江城山公園から撤去されたのは平成5年ということです。
「史跡松江城公園周辺整備事業」(実施報告書)の一環として、
「城内にあって景観を著しく阻害するもの」として撤去されたようです(松江市資料)。

建設時、デザインは、城山公園との調和を図ることを意識して、
和風の燈籠形とされたとあります。にもかかわらず、
平成の時代になって、ラジオ塔は「城山の景観を阻害するもの」と判断されて、
城山から撤去されてしまったわけです。

余談ですが、この松江城公園周辺整備の際に、明治期に築造された石造アーチの筋交橋や、
城内あった武徳殿も「景観を阻害するもの」として撤去されています。
島根県内には明治期の橋の現存例が少なく、また石橋という観点からも、
旧筋交橋は当地の橋梁の近代化を考える上でものすごく重要な遺構と思われますし、
武徳殿も全国的に見て現存例が少なく、撤去は惜しまれます。

「藩政期の松江城」を再現する上では、不要なものでも、
島根県の近代化を考える上では大変貴重な遺産だったはずで、
撤去はちょっと安易だったのではないかと思われます。
そんな中、どのような経緯か、
ラジオ塔は解体されず放送局傍に移築されたのは大変ありがたいことです。


○NHK松江放送局傍への移設
松江放送局へ移設された時期・経緯については、
直接、松江放送局へ問い合わせをいたしました。

移設は平成7年3月、
・松江市の城山公園が整備されるのに伴って現在の松江放送局の横に移した
・NHKのラジオ放送開始70年を迎えたこともあり、
60年あまりのラジオ塔の功績をしのびながら3月22日、移設除幕式を行って祝った
とのことでした。

移設除幕式まで行っていたとは。
後日、除幕式の詳細を当時の山陰中央新報から確認してみたいと思います。


以上、建設から移設までの経緯を確認してまいりました。
現地には説明の表示がなく、ラジオ塔に設置してある
「開局記念 昭和7年3月」の名板だけが手掛かりとなっているので誤解を招く可能性があります。
また、年月も経過し、ラジオ塔の意味自体知らない人がほとんどだと思います。
せっかく保存してあるのですから、
ぜひ、現地に説明板を設置して、ラジオ塔の歴史を道行く人々に知らしめるのがよいのではないかと思います。



【参考文献】
松陽新報記事
史跡松江城公園周辺整備事業」(実施報告書) 平成8年 松江市

【御礼】
NHK松江放送局に問い合わせたところ、大変丁寧な回答を頂戴しました。
誠にありがとうございました。

※その3に続きます。




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