元島根県民のお部屋

島根県の近代建築・近代化遺産と、路面モジュールのブログ

畦無橋(松江市湯町)その2

その1から1年以上経過してしまいましたが、
畦無橋のその2をお送りいたします。

a_20160508112120a68.jpg
畦無橋は、島根県内の道路橋では現存例が少ない、I型鋼桁橋です。

S5927八千代橋
(松陽新報昭和5年9月27日付)
松陽新報に鳥取の八千代橋の工事中の写真を見つけました。
畦無橋と同様の鋼製桁橋のようです。
コンクリートの床を敷く前の桁の様子がよくわかります。
畦無橋でも同様の工事風景だったのではないかと思います。

c.jpg
コンクリートの重厚な欄干に対して、桁は華奢な感じもするなI型鋼桁で、
バランスがいま一つあっていないような感があります。

d.jpg
最大の特徴はこのI形鋼材に刻印がしてあることです。

D-2
「DORMAN LONG & Co L」
「MIDODLESBROUGH」
「ENGLANDO」

すなわち、この鋼材は、イングランドの鉄鋼メーカーである、
DORMANLONG社製であるということです。

※DORMAN LONG & Co L
1875年創業で、現在は橋梁など建設を主とする企業です。
豪州シドニーのシドニーハーバーブリッヂ(1932)も、
当社によるものとのことです。

創業時は鉄鋼メーカーであり、
明治から大正にかけて、日本においても、
レールや建築鋼材の輸入が行われており、
鉄橋や古レールの現存例が報告されています。

※「DORMANLONG」の日本語読みは、
ネット上では「ドルマンロング」と「ドーマンロング」との二通りあり、
「ドーマンロング」のほうが合致します。

e.jpg
すべての部材に刻印があるようでした。

g.jpg
一部の部材は刻印がさかさまになっているものもありました。
設置時に刻印の天地を意識していなかったのでしょう。

f.jpg
裏側からI形鋼桁橋の観察です。
桁が14列並んでいます。
鋼材は途中で継ぎ目がありますので、
橋脚間のサイズの鋼材を渡しているのでなく、
短めの鋼材を継ぎ足し、桁を成しているということが分かります。




○架橋時の時代背景と輸入鋼材の関係

畦無橋の華僑は昭和14年2月です。
昭和14年といえば支那事変真っ只中であり、
物資の統制も厳しくなっている時代です。

加えて、輸入鋼材が土木構築物に使われていたのは
明治から大正にかけてと聞いています。
昭和10年代であれば、国内の生産体制もすでに整っているはずです。

当時の情勢を整理してみます。
昭和12年7月   盧溝橋事件
昭和12年10月  鉄鋼工作物築造許可規則
昭和13年4月   国家総動員法

昭和12年には「鉄鋼工作物築造許可規則」が作られ、
鋼材を使用する土木・建築に対して著しい制限がかかりました。
昭和14年(1939年)は、すでに欧州で第二次世界大戦がはじまっています。
かかる状況下で「わざわざ」イギリスから鋼材を輸入したとは考えにくいものがあります。

以上のことから、
「畦無橋の鋼桁は、どこかの鉄橋からの転用ではないか」
と、考えてみました。

国内にはI形鋼を用いた、
鉄道用の鉄橋がいくつか現存しています。
下記に西武安比奈線の実例をあげます。

い
畦無橋と同様のI形鋼が使用されています。
(なぜ熊のぬいぐるみが落ちているのかは不明です。)

お
見えにくいですが、
「DORMAN LONG」
「MIDODLESBROUGH」
の刻印が確認できます。

畦無橋架橋の際には、このような鉄橋で使用されていた鋼材を
どこからか調達して、再利用したのではないでしょうか。
鉄橋の部材を他所で転用するという事例は日本国内に多くあります。
島根県内の道路橋に限っても、須郷橋(日原旭橋からの転用)、
三隅橋(上江川橋からの転用)などの例があります。
昭和14年という時代の状況から考えても、
物資統制(不足)の折、「たまたま鉄橋の出物があって」、これを畦無橋に転用した。
ということは可能性としてあるのではないかと思います。



【参考文献】
・石見潟25号 平成21年 江津市文化財研究会
・鉄・鋼橋技術の産業的成立過程について(土木史研究第16号) 
1996 五十畑弘 榛澤芳雄
・鋼橋移設、既存ストックの有効活用(第9回鋼構造と橋に関するシンポジウム論文報告集)
2006 梶川康男

【参考WEB】
DORMANLONG社HP
スチール・ストーリー・ジャパン
 
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